読む

上林暁「二閑人交游図」

図書館でポプラ社の百年文庫を何気なく手にしたらたちまち気に入ってしまった。新書サイズでシンプルなデザイン、大きめの活字、すっきりとした印字、なんだかとってもチャーミングだ。これ、百冊全部、欲しい。 「二閑人交游図」はこれまで何度も読み返して…

カミュ「異邦人」、再読

冒頭の1行で、世界に対する無関心が宣言される。 「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない」 ふつう自分の母親の死をこんな味気ない乾いた言葉で報告する奴はいない。 今回、30年ぶりに再読して心に留めたのは最終ペ…

「第2図書係補佐」又吉直樹

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)作者: 又吉直樹出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2011/11/23メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 97回この商品を含むブログ (92件) を見る伊集院光のエッセイ集「のはなし」も面白かったけど、この又吉のエッセイ集も面白い…

面白くて3冊一気読み

「眼中の人」小島政二郎 眼中の人 (岩波文庫)作者: 小島政二郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1995/04/17メディア: 文庫 クリック: 7回この商品を含むブログ (12件) を見る芥川のことを中心に語られているのかと思っていたのだが、そうではなかった。小島…

読んだ本と買った本

時間をかけて読み終えた本が2冊。ヘミングウェイ「海流のなかの島々」と渡辺京二「逝きし世の面影」。 「海流のなかの島々」は二十歳の頃に一度読んでいたのだが、内容をすっかり忘れていた。正直、あまり面白くなかった。書かれているのはかなりリアルな作…

「BANANA FISH」吉田秋生

今月は5冊読んだけど、どれもいまひとつ物足りない。 「西日の町」 湯本香樹実 「倫敦塔・幻影の盾」 夏目漱石 「レキシントンの幽霊」村上春樹 「猫の縁談」 出久根達郎 「星を継ぐもの」J・P ホーガン それよりもマンガの「BANANA FISH」がよかった。以前…

「清に毛がはえた」

日本ぶらりぶらり (ちくま文庫)作者: 山下清出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1998/04/01メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 37回この商品を含むブログ (29件) を見る寝る前に本を読む。といっても堅苦しい本はベッドに持ち込まない。ゆるーい、浮世離れし…

「悪名」今東光

悪名 (新潮文庫 こ 5-3)作者: 今東光出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1964/12メディア: 文庫この商品を含むブログを見る気分が低調なときは、痛快娯楽小説でも読んで気分を軽くしたい。それで本棚から「悪名」を引っ張り出して週末の夜に読みふける。河内の…

久しぶりに太宰を読む

惜別 (新潮文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2004/02メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 19回この商品を含むブログ (51件) を見る太宰の小説を読むなんて何年ぶりだろう。久しぶりに太宰の文章・言葉に接して懐かしさを禁じ得ない。やはり太…

永井路子「炎環」

新装版 炎環 (文春文庫)作者: 永井路子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2012/06/08メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログを見る久しぶりに再読した。鎌倉幕府成立時の権力闘争が描かれているのだが、これが面白くて、あっという間に読了した。…

「こんな時、加藤清正が生きていたら・・・」

峰岸達「私の昭和町」は昭和三十年代の懐かしい風景を描いたイラスト・エッセイ集。ページを繰りながらスナップショットのように描かれる町の風景やポートレートを眺め、セピア色の昔を懐かしんだ。それにしても峰岸達の絵柄は昭和三十年代の風景にぴったり…

平出隆「猫の客」

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)作者: 平出隆出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2009/05/30メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (29件) を見る特に猫好きではないのだが、この本には心惹かれる。猫を客として家に招き入れた書き手の心…

野呂邦暢「諫早菖蒲日記」

この本を読むのは5回目か、6回目。良い小説は何度読んでもいい。 幕末、九州諫早藩の砲術指南藤原作平太の娘、15歳の志津が主人公であるが、本当は諫早という土地そのものがこの小説の主人公なのであろう。故郷に対する作者の愛情は樹木の一本、草花の花弁一…

「100分de名著」

4月からNHK教育テレビ(水曜日 午後11時)の「100分de名著」を見ている。4月の「源氏物語」はいまひとつピンとこなかったけど、5月のカフカ「変身」はよかった。学生時代に読んだきり、わかったような気になっていたけど、今回、家族の視点、妹の視点から「…

正宗白鳥「作家論」

白鳥の評論は歯切れがいい。以前、「自然主義文学盛衰史」をおもしろく読んだけど、この「作家論」もおもしろい。 「二葉亭について」 彼れは、実際界においては夢想家であったのだが、芸術家としては、空想力が極めて貧弱であった。文学を一生の事業とする…

“The Way Some People Die” Ross Macdonald

(ネタバレ注意) ラスト3ページに我が子の犯罪を認めたくない母親の姿が描かれている。ロス・マクドナルドはこの母親のラストシーンを描きたいために、この240ページの小説を書いたのではないか。そう思いたくなるほど母親の悲しみが心に沁みる。The Way So…

南木佳士「冬物語」

冬物語 (文春文庫)作者: 南木佳士出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2002/01/10メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (4件) を見る短篇十二篇。どの短編にも老いと病と死が出てくる。「死のある風景」とサブタイトルを付けたいくらい…

洲之内徹「桜について」

東京の桜は満開らしいが、神栖市の桜はまだ5分咲きといったところか。花見をする習慣がないので桜にまつわる思い出はないけれど、読んだ本の中に忘れられない桜の情景がある。 洲之内徹の「気まぐれ美術館」というエッセイ集の中に『桜について』の章があり…

井伏鱒二「岩田君のこと」

最近、たまたま見つけたブログを読んで感心した。アパートの隣人との淡い交流を書いた文章で、ちょっと気の利いたエッセイの味わいになっている。もう少し作り込めば短編小説にもなりそうだ。ああ、こういう文章はいいなと思い、自分も何か書いてみたいなと…

武田百合子「日日雑記」

ざっくばらんなおしゃべりの文章なんだけど実に面白い。この人の娘の武田花についてはすでに当ブログで何度も取り上げ、さんざん褒めているのだが、武田百合子は初めて取り上げる。 やはり血筋はあるのだな、と思う。二人とも、日常の中の奇妙なもの、奇妙で…

イリン「人間の歴史」

イリンの「人間の歴史」(先史・古代篇)を読んだ。平明な文章ですごく読みやすい。自由に伸び伸びと古代の場景を描写している。歴史家というよりも小説家の文章のようだ。著者の意見が出すぎているようだが、読み物として面白く読める。中学・高校生が歴史…

上林暁「武蔵野」

この本の裏表紙に「1996年1月9日 江古田 風光書房 1800円」と記入してある。風光書房は欧米の文学・思想書がメインで、絶版文庫なんかも揃っていた。江古田駅から遠かったので、そう気軽に立ち寄れる店ではなかった。現在は江古田から神田駿河台に移転したら…

古書店グラフィティを2冊

先週、出久根達郎のエッセイを読んだせいで、今週も古本関連の本に手を出した。池谷伊佐夫の「神保町の蟲」と「三都古書店グラフィティ」。相変わらず、この人の店内見取図は細かい部分までよく目が行き届いている。四方の棚にどんな本が並んでいるのか端か…

一人おいて

本のお口よごしですが (講談社文庫)作者: 出久根達郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 1994/07/01メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (6件) を見るだらけきった気分でページを繰っていたのだが、「一人おいて」という短文が心に残った。 文学…

正月に読んだ本

忘れられる過去 (朝日文庫)作者: 荒川洋治出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2011/12/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 20回この商品を含むブログ (23件) を見る 荒川洋治「忘れられる過去」 荒川洋治の本についてのエッセイはこれまでも何冊か読ん…

大晦日

部屋の掃除をしたり、庭の木の枝を切ったり、物置を片付けたりしているうちに日が暮れてしまった。残っているのは2台のパソコンのデータを整理するだけなのだが、どうやら今日中に片付きそうもない。正月にまたいでバックアップ作業を継続しよう。続・辻征夫…

吉行淳之介   「紳士放浪記」

吉行淳之介のエッセイは手当たり次第に読み散らかしているので、もうどれがどれやらさっぱり分からなくなっている。この本はまだ読んでないとおもってブックオフで購入したのだけれど、読み始めたら内容を思い出した。 その落胆のせいか、1章と2章がつまらな…

高見順「如何なる星の下に」

いまさら戦前の風俗小説なんか読んでもしょうがないよなと思いつつ、ページを繰ると、あっという間に戦前の浅草の雑踏の中に迷い込んでしまう。やはり好きなものはやめられない。この本は何度も読み返しているけど印象は変わらない。小説の中には穏やかで親…

「怪しい来客簿」のつづき

前回の更新を読み返したら、この本の内容について何も触れてない。ただ「面白かった」としか言ってないのだ。これでは何が面白いのかわからない。で、少し追加する。 第一話「空襲のあと」では冒頭、色川武大が日常生活の中で不安を憶える些細な現象が語られ…

色川武大「怪しい来客簿」

怪しい来客簿 (文春文庫)作者: 色川武大出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1989/10/07メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 29回この商品を含むブログ (45件) を見る久しぶりに読み返してみたけどやっぱり面白い。二十代の頃、毎年読み返していたからもう十回…