正月に読んだ本

忘れられる過去 (朝日文庫)

忘れられる過去 (朝日文庫)

荒川洋治の本についてのエッセイはこれまでも何冊か読んできた。そのたびに小説や実用書、または詩などについて、型にはまらない自由な読み方、本とのつき合い方を教えられてきた。この一冊でも本の楽しみ方はいろいろあるのだよ、と教えられた。
のはなし にぶんのいち~イヌの巻~ (宝島社文庫 C い 6-1)のはなし にぶんのいち~キジの巻~ (宝島社文庫 C い 6-2)のはなしに?カニの巻? (宝島社文庫)

「のはなし」(イヌの巻)、
「のはなし」(キジの巻)、
「のはなし」(カニの巻)
なんだろう、このやめられない感じ。読み始めると止まらない。特に面白いとか、いい話というわけでもないのだが・・・。読んでいると、「ああ、わかる、わかる、その気持ち」というのが随所に出てくる。やはりラジオで鍛えられた話芸の余禄なのか。それから、こう言ってはなんだけど、やはり適度に安っぽい感じがいいのかもしれない。これが文豪の随筆集だと、こうはいかない。芸人の雑文集だという気安さがあるから、寝そべって駄菓子でもぼりぼり食べながら気楽に読めるのだ。肩が凝らなくてちょうどいい。だいたいこの雑文集自体が駄菓子のように親しみやすい。

へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)

へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)

正月早々、いい本に出会った。こういう人が実在したということ自体、実にありがたいことだと思えてくる。この本は画家・熊谷守一の自伝なのだが、何でもない些細なエピソードが楽しい。どんな小さな事実でも、熊谷守一を通して語られると微笑ましくなる。これはもう持って生まれた人間性によるものだとしか言いようがない。
そんな何でもない話のひとつ。

同じころ、東京の日動画廊でも藤田嗣治や野間仁根と組んで展覧会を開きました。いやらしいけれど、絵を売ることをおぼえたわけです。馬車引きになりそこなったので、絵で商売をしようと腹を決めたわけで、こういう運びになりました。
 日動の長谷川仁さんが絵を取りにくると、私はたいがい庭にムシロをしいてねています。腰の袋の中に日本画用と油絵用の小さなスケッチブック二冊を用意していて、アリが通ったりするとそれをスケッチして、またゴロリと横になるといった調子でした。
 私があんまりラクそうにねているから、長谷川さんも「私にもやらせてくれ」といってねころびました。しかし、いい着物を着てそんなことをしたのではサマにならない。長谷川さんは「やっぱりダメです」といってやめました。