平出隆「猫の客」
- 作者: 平出隆
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/05/30
- メディア: 文庫
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この猫の個体としての特徴は、細身で小さく、それだけに、きれいに尖ったよく動く耳が目立つというほかは、人にすり寄って行く気配がまったく感じられないことだった。はじめは、こちらが猫に慣れないせいか、と思ったがそうでもないらしい。稲妻小路を通りがかりの少女が、足をとめ、しゃがみこんで見つめても逃げないが、手が触れようとする瞬間、するりと鋭くかわした。その拒絶ぶりに、冷たくて青白い光の感触があった。
ちなみに、この河出文庫版はなかなかいい感じの本である。紙質がちょっと分厚くて、文字サイズも大きく、明朝体の活字がすっきりと印字されている。行間のスペースもたっぷりとってあり、どのページを開いても呼吸が楽になる。
ネットで調べたら著者は詩人、大学教授でありながら、装幀・造本も手掛けているらしい。おそらく、文庫本ではあるけれども、この本の作りにも著者の意向が及んでいるのかもしれない。
(追記: 河出文庫の尾崎翠「第七官界彷徨」を手にしてぱらぱらページをめくってみたら、こちらも同様のレイアウトである。ということは、本の作りに関する著者の意向がなんたらかんたらというのは、まったく私の思い過ごしだったようだ。)