一人おいて

本のお口よごしですが (講談社文庫)

本のお口よごしですが (講談社文庫)

だらけきった気分でページを繰っていたのだが、「一人おいて」という短文が心に残った。
文学全集の口絵に作家の写真が載っている。集団で写っている写真なのだが、有名作家達の間に一人だけ、名前も載せてもらえず「一人おいて」とされしまう人物がいるというのだ。
そんな人物の一人が淡島宝受郎。この人、日本橋の豪商のむすこで、古書の収集が趣味。金にあかせて古書を買いまくり、西鶴に注目し、幸田露伴にその価値を教えた。また、自らの蔵書を惜しげもなく貸し与えたという。尾崎紅葉もまた淡島のすすめで西鶴に親しんだ。のちに淡島自身も露伴や紅葉に刺激されて小説を書いたが一本立ちするに至らなかった。終生職業をもたず、自分の好きな趣味の世界で生きた。
宝受郎、号を寒月。露伴も紅葉もこの奇特な通人を、のちのちまで徳として慕ったが、後世の人の評価は冷然と「一人おいて」である、と結んでいる。
松本清張の『或る「小倉日記」伝』ではないが、最近、「むくわれない人にひかれる」。功成り名を遂げた人よりも、無名の人の人生にドラマを感じてしまう。年のせいだろうか?

(写真は去年の秋、庭に咲いていた花。この花の名前はたしか・・・、一度聞いたのに忘れてしまった)