南木佳士「冬物語」

冬物語 (文春文庫)

冬物語 (文春文庫)

短篇十二篇。どの短編にも老いと病と死が出てくる。「死のある風景」とサブタイトルを付けたいくらいだ。著者は総合病院の内科医であるため日常的に死と向かい合っている。仕事として他者の死を事務的に処理していると心の底に滓のようなものが溜まってくるのだろう。白衣を脱いでプライベートな時間になってようやく一人の人間として患者の死を見つめ直しているふうだ。
題材が重く暗いにもかかわらず軽いエッセイのようにすらすら読めてしまうのは、雑談のような普段着の語り口のせいだろうか。全体的に淡い水彩画のような印象である。読みやすいけど、ちょっと物足りない感じもする。
三浦哲郎の「みのむし」を思い出した。こちらも短篇で同じように病と死を扱っているのだが、読後感は強烈だ。短篇小説の手練れの凄味を感じる。(短篇集「ふなうた」に収録)
ふなうた―短篇集モザイク〈2〉 (新潮文庫)

ふなうた―短篇集モザイク〈2〉 (新潮文庫)