上林暁「二閑人交游図」

図書館でポプラ社の百年文庫を何気なく手にしたらたちまち気に入ってしまった。新書サイズでシンプルなデザイン、大きめの活字、すっきりとした印字、なんだかとってもチャーミングだ。これ、百冊全部、欲しい。
「二閑人交游図」はこれまで何度も読み返してるのだが、この百年文庫の手触りを楽しみながら再読したくなった。さっそく借りてきて、週末の夜、眠気にうとうとしながら読み終えたのだが、これって小説なのだろうか? 今さらながらそんな疑問が湧いてきた。随筆と私小説の見分けがつかない。
まあ、本当は小説であろうがなかろうが、そんなことはどうでもいい。好ましい情景がスケッチされている文章に親しむ。それだけでいいのだ。
内容は、上林自身とおぼしき小説家の小早川君とドイツ文学者の滝沢氏(浜野修がモデルらしい)の交友記である。二人とも四十歳前後で、原稿書きの仕事をしながら家庭を支えている。ただ、その家計はなかなか苦しい様子である。ちらりと生活苦の記述もあるのだが、それについて多く語られていない。上林は寡黙なのである。その苦労は語らず、二人は将棋に興じ、釣りを楽しみ、銭湯に入り、熱燗の酒を味わう。そんな生活の愉しみを淡々とスケッチしている。たとえ貧しくとも、この二人のような生活態度で人生を送れるならば、それもわるくないように思える。
ちなみに、この小説の冒頭で上林は「身辺の哀れに取材した私小説」の作家であると自己紹介している。そうか、私小説の本領は身辺の哀れ、物悲しいエレジーなんだな、と妙になっとく。

(012)釣 (百年文庫)

(012)釣 (百年文庫)