「第2図書係補佐」又吉直樹

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

伊集院光のエッセイ集「のはなし」も面白かったけど、この又吉のエッセイ集も面白い。駄菓子的な味わいというか、身近な話題でちゃんとひとつのお話を作っている。芸人は職業としてネタ作りしているから慣れているかもしれない。
いくつか書き出しを抜き出してみる。

上京して間もない頃、僕は陰気な雰囲気のためか死神や殺人者という穏やかではないニックネームで呼ばれることが多かった。

三日間誰とも会話していないことに気付き何となく不安になり、少し声を出してみようと虚空に向かって「ああ」と発声してみた。

子供が好きか嫌いかと問われれば苦手だが好きだと答えたい。

体育館の横で、「お前に飽きた」と友達から宣告された。

小学生の頃、友達の家で遊んでいると僕と同じ年くらいの知らない不思議な雰囲気の女の子が、「ライターを貸してください」と訪ねてきたことがあった。

タレント業のためのキャラ作りではなく、本当に小説が好きなんだということが伝わってきた。この本に刺激されて、純文学を真面目に読んだみたくなった。実利的に役に立たない小説ばかり読んでいることに少し引け目を感じていたのだが、役に立たなくてもいいじゃないか。小説はいいものだよ、言いたい。
特に純文学は暇つぶしではなく、一部の人間にとっては生きていくための必要悪的な要素があるのだ。自分のような人間もこの世界で生きていていいんだと、呼吸する場所を与えられたような気持になることがあるのだ。小説ではないけど、萩原朔太郎の詩にはそういう効用があるのだと思う。