中島義道「哲学の教科書」3

モンテーニュエセー抄 (大人の本棚)
第四章「哲学は何の役にたつのか」で、「自分自身に『なる』こと」を説いている。人生の目標は自分自身「である」ことではなく、自分自身に「なる」こと。「いかに生きる」かではなく、「生きることそのこととは何か」という問いから出発するのだという。
偉大な業績を残すこと、世のため人のために尽くすこと、財産を成すこと、夢を実現すること、それらはどれも素晴らしいことにはちがいないが、優先順位の1位ではない。それよりも「生きること」そのことを目標にする。ふさわしい自分になること。
第四章の最後にモンテーニュの言葉が引用されている。これがあまりにも的を得た言葉なので再引用する。

われわれは言う。「彼は無為の中にその一生を過ごした」「ぼくは今日何もしなかった」― と。冗談ではない。君は生きたではないか。それこそ、君たちの仕事の根本であるだけでなく、その最も輝かしいものではないか。
(中略)
われわれの偉大で光栄ある傑作とは、ふさわしく生きることである。そのほかのことは、統治することも、お金をためることも、家を建てることも、皆、せいぜい付帯的二次的な事柄にすぎない

何か役に立つことをするのでもなく、ただ自分にふさわしく生きることに意味がある。いや、それこそが人生最大の仕事なのだ。そう言われると悪い気がしない。なんだか少しばかり勇気が湧いてくるではないか。遠くにある夢を追いかけるよりも足元に視線を戻して目の前の一日一日を自分らしく生きることをもっと真剣に考えてみるか。
2009年の最後は妙な人生論・教訓みたいな締め括りになってしまったけど、まあ、いいでしょう。来年もよろしくお願いいたします。