9月、5冊

哲学入門 死ぬのは僕らだ!   私はいかに死に向き合うべきか (角川SSC新書)
丸山健二の「月に泣く」、「惑星の泉」、「野に降る星」、吉行淳之介の「焔の中」、門脇健の「哲学入門 死ぬのは僕らだ!」。
読書欲が高まっているのか、一気にガツガツ読んだ。どれも面白い。丸山と吉行の本は再読・三読で、内容は分かっているのに面白く読むことができた。やはり文章の力だろう。
特に「月に泣く」は硬質な文章が生み出す緊張感が心地いい。鋭利な刃物で切り出されたような文章、用意周到に配置された言葉が鮮やかなイメージを展開する。行を目で追いながらときめく。
「焔の中」は敗戦当時、二十一歳だった著者の回想記。うねるようなストーリー性はないが、まるで顕微鏡で観察するように自己を見つめ、心理を描写している。一人の青年の心の動きを吉行の冷静で乾いた視線が精緻に捉えている。心理の観察と描写にフォーカスして人間に迫っていくのもまた文学の仕事か。
「野に降る星」については以前読んだときと印象が異なる。最近の丸山の言動につながるのだが、全体主義への声高な批判や権力に追随する民衆への苛立ちがこの小説の中でも繰り返されている。それが何度も繰り返されるものだから、単調になり、中盤あたりからは「またか」という気持ちになる。正直なところ退屈だった。
「哲学入門 死ぬのは僕らだ!」は考えるヒントがたくさんあって、もう一度ゆっくり再読してみたい。第二章でユーミンの「ひこうき雲」の歌詞の解読はみごと。新しい風景を見せてもらった。