ETV特集「清掃員画家ガタロさんが描くヒロシマ」

清掃の具―素描集 (けいすい汎書)
9月だけで3回くらい再放送されているのではないだろうか。よほど反響がよかったのだろう。そのうちの1回、たまたま途中から見たのだが、リモコンのチャンネルに指を置いたまま最後まで見てしまった。
広島・基町のショッピングセンターで清掃員をしているガタロさん(63歳)のキャラクターが明るく飄々としていて、こちらが勝手に想像している清掃員のイメージとはだいぶ違う。また、看護師をしている奥さんとの暮らしぶりも、お互いに信頼し合っている様子が伝わってくる。仕事を終えた後にガタロさんは絵を描き、奥さんは花を育てる。なんともつつましく好ましい生活風景なのである。
そういうメインの話から逸れるのだが、ホームレスの中年男性Sさんとガタロさんの交流が興味深かった。10年ほど前、ショッピングセンターで野宿するSさんと親しくなったガタロさんは、Sさんの肖像画を描くようになる。Sさんも徐々に心を開き、身の上話などするようになる。知的障害があること、虐待を受けたこと、石を投げつけられたことなど。
そういう交流をしながら数年を経たある日、ガタロさんがSさんに「わしのことをどう思う?」って聞いたらしい。そしたらSさんは一言、「馬鹿じゃ思う」と言ったという。ガタロさん、自分のことを言われたとはにわかに信じられなくて思わず後ろを振り返ったそうだ。
この話は面白い。ふふっと笑った後で心がしーんと静まり返る。生きることの危うさと滑稽が背中合わせになっていることに気づく。なんか、つげ義春の漫画の世界みたいだ。