引き続き、小山清

「朴歯の下駄」の余韻に浸りながら、ちくま文庫の「落穂拾い・犬の生活」と津軽書房の「風貌」を読んだ。

落穂拾い・犬の生活 (ちくま文庫)

落穂拾い・犬の生活 (ちくま文庫)

収録されている作品は新潮文庫の「落穂拾い・聖アンデルセン」とかなり重複している。でも、久しぶりに小山清と再会するようなつもりで読み返してみた。やはり、「落穂拾い」がいい。「夕張の宿」や「前途なお」も好きだけど、やっぱり「落穂拾い」だ。
それから意外だったのは「メフィスト」が面白く読めたことだ。以前読んだときはさほどいいと思わなかったけど、今回は太宰張りのユーモア小説として楽しんで読むことができた。もし著者名を隠してこれを世に出したら太宰治の遺稿と勘違いされるのではないか?
風貌―太宰治のこと

風貌―太宰治のこと

「風貌」は師・太宰治について小山清が書いた文章を蒐めたもの。ここで興味深かったのは、小山と太宰が初めて会うシーンだ。当時三鷹に住んでいた太宰の家を小山が紹介状もなく、手紙で訪問の許可を得ることもなく、いきなり単身でふらりと訪ねる。
玄関先に立って「ごめん下さい」と呼びかける。すると、その呼びかけに応じて太宰本人が出てくる。その時の太宰は蓬髪で長身であったと書かれている。「初めてお伺いした者ですが、ちょっとお目にかかりたくて」と言うと、太宰はかるくうなずいて、「お上がり」と言った。
驚いたのはこの箇所である。そんなに簡単なの? というのが正直な感想である。時代がおおらかだったのだろうか。見ず知らずの一読者がいきなり訪ねて来て、じゃあ、お上がりなさい、って今では考えられないだろう。そして、この出会いから小山は太宰に師事し、理想的な師弟関係を築いていくのだから人の縁というのはわからないものだ。
太宰が小山清に書き送った葉書が何通か残っている。その葉書の中で太宰が小山の生活態度を箇条書きで叱咤して箇所がある。その一部を抜粋してみる。

一、オバサンや友人たちに対し、気前よくせぬ事。ケチになる事。拒否の勇気を持つ事。(間違ひのない、小さい孤独の生活を営め!)
一、会社のツトメと、帰宅してからの読書と、執筆と、この三つ以外に救ひを求めぬ事。
以上、たのむ! 
このハガキには返事不要。滝の如く潔白なれ! 滝は跳躍しているから白いのです。めめしさから跳躍せよ! お前も三十五じゃないか。