隣のテーブルで

緑

某日の午後、ある喫茶コーナーでコーヒーを飲んでいたら、隣のテーブルで中年男性と数人の男たちが仕事の話をしていた。こちらは本を読んでいたのだが、かれらの話し声が耳に入ってくる。どうやら面接をしているらしい。
2人一組で10分くらいずつ、履歴書をテーブルの上に置いて話をしている。仕事は工場の中の肉体労働のようだ。20代、30代の若者だけでなく、50代、60代の中高年もやってきた。面接官は若者に対しては経験がないようだけど肉体労働は大丈夫かと尋ね、年配者に対しては体力的に大丈夫ですかと訊いていた。同じ場所に同じ姿勢で立ちっぱなしの仕事だという。これから夏になればかなり暑くなる。冷房のない現場で、防護服を着ての作業だという。仕事は単純だから誰にでもできるが、肉体的精神的に耐えられるかどうかが心配だと言っていた。楽な仕事だとは言わないと念を押しているところをみると、これまでにも辛抱できずに辞めていった人が多いのだろう。
それでも、面接に来て、大丈夫かと訊かれて、その場で無理ですと言う人はないだろう。私は本に集中しようとしたが、隣の面接が気になってしょうがない。本の内容なんてまったく頭に入ってこない。まるで自分が面接を受けているような気分だ。
やがて6、7人の男たちは現場見学に行くということで店を出て行った。私は自分だけ取り残されたような気分でしばらくぼんやりしていた。なんか、疲れた。
(写真はミスタードーナッツ。窓外の樹木の緑が目に沁みる季節です)