「第七官界彷徨」尾崎翠

第七官界彷徨 (河出文庫)

第七官界彷徨 (河出文庫)

震災後、最初に手にした本がこれ。前から読もう読もうと思いながら積読状態だった。重苦しい気分をいっとき忘れたくて手に取ってみた。そして期待どおり。なんだろう、このすっとぼけた感じ。大真面目な顔をして実に馬鹿げたことを淡々と綴っていく。こんなユーモラスな味わいの小説を昭和6年に発表していたなんて驚きだ。(昭和初期のモダニズム文学やアバンギャルド文学ではこういう作品がたくさん書かれていたのだろうか?)
あえて注文をつけるとすれば、この作品では尾崎翠は持てる才能の片鱗を見せたにすぎない。本当はここを出発点にして、さらに独自の世界を作り上げていくべきだったのだ。この小品を代表作として、ほんの数作を残しただけで筆を折ったというのは実にもったいないことだった。せっかくの才能なのに。