山口瞳「『男性自身』傑作選・熟年編」
- 作者: 山口瞳,嵐山光三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/03/28
- メディア: 文庫
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でも、実際のところは座談会で二度ほど同席しただけのようだ。その座談会をきっかけにして特に親しくなった様子もない。それでも、後に寺山の態度が少し変わる。そのきっかけとなったは寺山の短歌について山口瞳が言及したことのようだ。
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
この歌について「我等戦中派の無念が集約され結晶しているように思われる」と書いたのだ。そのことがあってから、寺山の態度が変わり、会えばニコニコっと笑いかけるようなった、という。
また、実際の寺山の馬券の買い方についてはこう書いている。
寺山の競馬は、正統派であり生真面目であり、ある意味では小心で臆病だった。ロマンだ夢だデカダンだというのは表向きのことである。
話は変わって、向田邦子についてのエピソード。
山口瞳が向田邦子と知り合ってまだ日が浅い頃。新橋の小さな酒場で飲んでいるとき、向田邦子は「私、阿部昭と竹西寛子と野呂邦暢の小説は必ず読むの」と言ったという。また、野呂邦暢に対する思いは強く、「諫早菖蒲日記」をドラマ化したいという希望を持っていたらしい。
野呂邦暢ファンの一人として「諫早菖蒲日記」の名が出たことがうれしい。