中井英夫「悪夢の骨牌」

新装版 とらんぷ譚 (1) 幻想博物館 (講談社文庫)
中井英夫の小説「虚無への供物」、「とらんぷ譚」I 、II、 IIIが講談社文庫から新装版として刊行されている。怪奇、幻想、非現実の世界、人外という異境を彷徨う人々を扱った小説である。夢と現実、過去と現在、異質の時空間が綯い交ぜになった世界が展開する。好きな人にとってはたまらないだろう。
私も熱狂的ファンというわけではないのだけれど、さっそく『とらんぷ譚』(II)の「悪夢の骨牌」を買ってきて、この特異な世界を堪能した。おそらく、興味のない人にとってみれば「なんだ、こんなもの。くだらない」と言うかもしれない。新装版 とらんぷ譚 (2) 悪夢の骨牌 (講談社文庫)中島義道の言を借りれば、「現実がグロテスクなのに何もわざわざグロテスクな虚構を作ることはあるまい」と。
しかし、こういう小説は酒や煙草と同じ嗜好品である。堅苦しい考え方は無用である。人工美の世界、妖しいおとぎ話を楽しめる人は楽しめばいいのである。