「街場の現代思想」内田樹

街場の現代思想 (文春文庫)
「人間は他者を完全に理解することも共感することもできない」と言っている。ひとまず諦めの言葉を掲げているが、その諦観で止まるつもりはないらしい。その先に望みをつないでいる。
「他者との共生の基盤は共感や理解ではなく、『なんだかよくわからない人だけど、ぎゅっと抱きしめると、ちゃんと抱き返してくれる』だけで十分である」という。
これについては「想像力と倫理」の章で繰り返されている。

私が自分の「仲間」として許容できるのは、「ウチダが何を考えているか知らないけれど、まあ、好きにしろよ」と言ってくれる人間。社会にいろいろなトラブルがあるときに、「悪いのは誰だ!」という他罰的な設問形式に固着することなく、「まあ、いろいろ困ったことはあるけれど、みんなでちょっとずつトラブルの責任を引き受けましょう」と言ってくれるような人間である。
(中略)
私たちが共同的に生きることができる人間というのは、私のことをすみずみまで理解し共感してくれる人間ではなく、私のことを理解もできないし、私の言動に共感もできないけれど、それでも「私はあなたの味方だよ」と言ってくれる人間のことなのである。

心に引っかかる言葉は他にもあったけど、長くなるので、今回はこれだけ。