「いつか王子駅で」堀江敏幸

いつか王子駅で (新潮文庫)

いつか王子駅で (新潮文庫)

たまたま書店でこの本が目にとまって購入した。堀江敏幸については何も知らない。何の予備知識もなく未知の小説家の本を読むなんて珍しいことだが、今回はちょっとした運だめし。
本の内容はどう言ったらいいだろう。「時間給講師の私」が王子駅周辺の土地柄に親しみ、市井の人々の暮らしぶりを描いている、ということになるのか。でも、それでは物足りない。本の上っ面を撫でているだけだ。大切なのは、この主人公が町の人々と関わり、好きな作家や文章への愛着を語り、手足を使って仕事をする職人たちの感覚・言葉に対して敬意を払い、それらを丁寧に心に馴染ませていることではないか。自分の内面と外の世界との優しい関係とでもいおうか。そうした穏やかな小宇宙が柔らかい文章で描き出されている。
これは隠遁者の文学だろうか。親しみを感じた理由はどうやらその辺にありそうだ。とりあえず、正月に読む本として選球眼に狂いはなかった。新年早々、好ましい作家に出会えて幸せである。

コットンが好き (文春文庫)

コットンが好き (文春文庫)

高峰秀子のエッセイを毎月一冊ずつ読んでいるのだが、そろそろ読み残しの本が少なくなってきたので心配だ。
この本では高峰が愛用している生活雑貨や骨董品が紹介されている。各ページに写真が添えてあり、文庫本としてはなかなか豪華な作りになっている。そのぶん値段も高めだけど。これも正月に読む本としてはストライクだった。