丸山健二「貝の帆」

貝の帆

貝の帆

残念ながら今回も期待はずれ。このブログではあまり否定的なことや批判的な文章を書きたくない。でも、時間をかけて読んだ本が期待はずれだとやはり愚痴をこぼしたくなる。
かつて、丸山健二は写実に徹した寡黙な作家だった。抑制の利いた文章を武器に独自の世界を作り上げていた。それが、ここ十年、人が変わったように大袈裟な言葉を振り回すようになってしまった。残念でならない。
初期の作品だけがよかったというのではない。写実の世界から幻想的世界へ飛躍した「月に泣く」はよかった。また、賛否両論あったようだが、「千日の瑠璃」は現代詩よりも実験的で新鮮な言葉の世界を創造していた(刺激的な読書体験だった)。
あの頃までは著者紹介の謳い文句にあるように「現代日本の文芸界で最も刺激に富む作家」だったのだ。ところが、ここのところ失望つづきである。もしかしたらこの失望感は丸山健二を30年間読み続けてきて、その小説あるいは価値観・世界観に飽きただけのことなのかもしれない。しばらく遠ざかっていたほうがいいのだろうか。でも、新刊が出ればつい手にとってしまう。無視できないのだ。
いつかまた目の覚めるような独自の世界を展開することを期待している。