ロス・マクドナルド

The Underground Man: A Lew Archer Novel (Lew Archer Series)

The Underground Man: A Lew Archer Novel (Lew Archer Series)

今週はRoss Macdonald “The Underground Man” を読んでいる。お気に入りのバラード曲に聞き入るようにロス・マクドナルドの世界にどっぷり浸っている感じだ。
かつて、ハードボイル小説はチャンドラー、一人で充分だと思っていた。それが、 村上春樹の紹介文を読んで風向きが変わった。遅ればせながらマクドナルドの魅力に取り付かれたのだ。これで5冊目。

「動く標的」の原作も初期のロス・マクドナルドらしいピリッとしたいい出来だったけど、僕は中期の「縞模様の霊柩車」とか「ギャルトン事件」なんかがすごく好きだ。どのページを開けても抑制された筆致で、人が生きていくことのせつなさが、ぴしっと描いてある。登場人物はみんな暗い帽子をかぶったみたいなかんじで、それぞれに不幸への道をたどりつづける。誰も幸せになれない。でも、それでも、人は歩きつづけるし、そうしなければならぬのだとロス・マクドナルドは叫びつづけているように見える。
「みんなはカリフォルニアには四季の変化がないっていうけど、そんなことはない」とある小説の中で彼は書いている。「不注意な人間がその変化に気づかないだけなのだ」と。
僕はロス・マクドナルドの死を心から悼む。


村上春樹「象工場のハッピーエンド」の「マイ・ネーム・イズ・アーチャー」より

ついでに、読み終わったペーパーバックについて短いコメント。
R.D. Wingfield “Winter Frost”
複数の事件が次々に起こって、てんやわんや(死語か)のデントン警察署。これはいつものとおり、お決まりの展開。ただ、今回はちょっとやりすぎではないか? あまりに間口を広げすぎて収拾がつかなくなっているようだ。どの事件も結末がいかにも取ってつけたような終わり方になっている。そのため全体の印象が薄味になってしまい、なんとも味気ない。もちろん、フロスト警部に鮮やかな推理や劇的な解決を望んでいるわけではないが・・・。もしかしたら私の英語力不足による消化不良なのかもしれない。邦訳が出たらもう一度じっくり読み返してみたい。

William Saroyan“Best Stories of William Saroyan”
久しぶりにサローヤンを読んだ。二十歳の頃に“The Human Comedy”を読んで以来のファンである。この本の中では、“The Man with the Heart in the Highlands”、 “Laughing Sam”、 “The Cat”がよかった。いつものことながら、サローヤンは子供を描かせると抜群だ。