「虫の宇宙誌」奥本大三郎

dragonfly

「たった一人の家の中に、自分の他に、元気に飛んだり這ったりしている生きものがいるのは、いいものである」
奥本大三郎「虫の宇宙誌」の中の一節である。著者が一人暮らしをしているときに、たまたま家の中に蛾が入り込んでくる。テレビの前を横切ったり、電灯の周囲をせわしなく飛び回る。しかし追いかけて叩く気になれない。ウィスキーを飲みながら、小さな蛾の飛びまわるのを見ていると、だんだん面白くなってくる。夏の宵に蛍が飛び交う、とまではゆかぬが、一抹の風情がある、と著者は語る。
私はこの態度に感銘をうけた。私もこういう心構えで生きていきたいものだと思った。目障りな奴、邪魔な奴、好ましからざる客、そういうものを拒まず、共に生きるものとして受け入れる。生のにぎわいとして楽しむ。そういう人生観を思い描いて、私は陶然としたのだ。
しかし現実の私はちがうのだ。この共生の思想からはほど遠い。気に入らぬ奴はことごとく抹殺してしまう。部屋に入ってきた虫は一匹残らず粛清する。ハエ、カ、ゴキブリ、カナブン、クモ。そして今回のネズミも例外ではない。この潔癖さは悪魔の性質に近いものだ(アメリカみたいだな)。
身近な虫や小動物を自由に遊ばせ、共に生きてゆくことができたらよいのだが・・・。

虫の宇宙誌 (集英社文庫)

虫の宇宙誌 (集英社文庫)