「カフカとの対話」グスタフ・ヤノーホ

1920年3月、正午少し前の時間、17歳の少年がプラハ市内の労働災害保険局の古めかしい建物に入っていく。同局に勤める父親の紹介で、三階の法規課にいる人を訪ねることになる。
「事務室はかなり広く、設備が行きとどいていた。二つ並べてある事務机の一方に、痩せて背の高い人が座っていた。オールバックにした黒い髪、節のある鼻、目立って狭い額の下の不思議な青灰色の目、苦甘い微笑をうかべた唇、の持ち主だった」
詩を書き始めたばかりの少年グスタフ・ヤノーホと「変身」の作者フランツ・カフカの出会いである。
「あなたの詩にはまだ雑音が多いようです」カフカは少年に話しかける。「これは青春につきものの現象であって、生命力の横溢を示すものです。だから雑音さえも美しい。けれども芸術とはまったく無関係です・・・(後略)」
いくら同僚の息子とはいえ、17歳の少年に対してカフカは驚くほど礼儀正しく、誠実に接している。文学だけでなく、宗教や人種問題についても率直に話している。読んでいると、まるで自分もその場にいてカフカの声を聴いているような気がしてくる。
このときカフカはまだ36歳である。しかし1924年に亡くなるので、4年後にはもうこの世の人ではないのだ。