つかこうへい氏 追悼

初級革命講座 飛龍伝 (角川文庫)
小説 熱海殺人事件―つかこうへい劇場〈1〉 (つかこうへい劇場 (1))
また思い出話で恐縮である。かれこれ三十年前、生まれて初めて観た演劇がつかこうへい作・演出の「初級革命講座 飛龍伝」だった。それまで学校演劇でさえ観たことがなかったのに、何を思ったか、急に高田馬場の東芸劇場(線路際、喫茶店の二階)に出かけて行ったのだ。
狭い劇場の一番後ろの席に座り、開演のベルが鳴り、照明が消え、暗い舞台のそでにライトが当たると、そこに黒いズボンに白いワイシャツ姿の元機動隊員・山崎が立っている。山崎のモノローグから始まった芝居は一瞬も停滞することなく、たたみかけるようなテンポで展開していく。そのスピード感と役者たちの熱気に圧倒され、気がつくと二時間が経過していた。幕が引かれ、照明が点いて客席が明るくなっても、私はしばらく立ち上がれなかった。あのときの衝撃をどう表現したらいいのかわからない。
それ以来、つか氏が一時休養するまでの間、何十回紀伊国屋ホールに足を運んだことだろう。熱に浮かされたように何度も同じ芝居を観に行った。ただ、90年代以降、つか氏が演劇活動を再開してからの舞台はそれほど観ていない。やはり、一時の熱い思いが戻ってこなかったのだ。この十年間はつか氏の舞台を観ることもなく、文章を読むこともなかった。だから今回の訃報に接してもそれほど悲しくならないだろうと思っていた。でも、やはりじわじわさみしいがこみ上げてくる。
役者たちがあんなにカッコよく見え、極め付きの殺し文句を散りばめた芝居は他では観ることができない。ほんとに稀有な才能だったと思う。
「人間の価値はやせ我慢のしかたで決まる」 つかこうへい
関連の拙文( http://d.hatena.ne.jp/fuyunokakashi/20060402