つげ義春の自伝

つげ義春コレクション 苦節十年記/旅籠の思い出 (ちくま文庫)
つげ義春コレクション 苦節十年記/旅籠の思い出」 (ちくま文庫) を読了。本書に収録されている「旅のエッセイ」と「夢日記」はすでに新潮文庫で読んでいる。「自伝的エッセイ」の章は初めてで、これが面白かった。
貧乏と心の病いのオンパレードなのだが、そんな苛酷な現実を生き延びる人間のしたたかさ、生命力に感動する。生きる困難に対して強くなって生き延びるのではない。弱いまま苦しいまま生き延びるのだ。本人にとっては感動どころか、苦しいばかりで痛ましい日々なのだが、他人事として鑑賞するぶんにはなんというか励まされる。
おそらくつげ義春よりも苛酷で壮絶な人生を生きている人はいくらでもいるだろう。でも、それを漫画や文章に昇華して鑑賞に堪える作品にできる人はいない。考えてみれば、このように表現ができるということは自分を客観的にみつめているわけだから、それは相当に強靭な精神力を持っているということになるわけだ。つげ義春を弱者と見るわけにはいかない。
ちなみに巻末の池内紀の解説がすばらしい。