「花まんま」朱川湊人

花まんま

花まんま

体裁としてはいちおう怪奇談なのだが、どちらかというメルヘンというか、ノスタルジックなおとぎ話に近い。肩の凝らない素直な文章で、とても読みやすい。時代背景が昭和三十年代ということで同世代の私にとってはたまらない。
お気に入りは、表題作の「花まんま」と「トカビの夜」。二篇とも切なくて、ちょっと泣ける。特に「トカビの夜」に登場する病弱で薄幸な少年・チェンホの面影はいつまでも心に残る。
この短篇に作者の見識が表れている文章があったので、ちょっと引用してみる。

外国籍の人間に対する偏見は今でもあるが、三十年以上昔となれば、なおさらだ。戦前戦中の誤った認識を引きずっている人間はたくさんいたし、自分と異なるものをむやみに低く見て、安っぽい自尊心を満足させる精神の貧しさが、まだ社会のあちこちに横溢している時代だった。それは気のいい袋小路の人々や私の両親の中にさえ、当たり前のように存在したのである。

物語の流れを中断せず、こういう文章を挿入し、哀話ともいえる短編を仕上げた朱川湊人に拍手。ぱちぱちぱち。
(写真はフリー素材。[フォトライブラリー]より)