A.A. Fair “Turn on the heat”

A.A. Fair

十年前、東京・練馬の古本屋でA.A. Fairのペーパーバック、23冊をまとめ買いをしたことがある。安っぽい表紙の本で、各150円だった。店の外に無造作に並べられていたので、どの本も手で触ると砂と埃でじゃりじゃりしていた。それでも、まとめれば3,450円である。いつも均一本ばかり買い漁っている私にとって安い買い物ではなかった。
すでにハヤカワ文庫の邦訳を数冊読んでいたので、この「クール&ラム」シリーズは面白いと当たりが付いていた。だから迷わなかったのだ。それに、チャンドラーやロス・マクドナルドばかり読んでいた私にとってこのシリーズは新鮮だった。アメリカの探偵小説で、こんなに軽くて淡泊なのは珍しいと思っていた。
今回、物置小屋に押し込んでおいた23冊の中から1冊だけ引っ張り出して読んでみた。それが“Turn on the heat”。読後感としては、ちょっと物足りない感じが残った。ロス・マクドナルドの濃厚なドラマ、情念のドラマを読みすぎたせいだろうか。やはり淡泊すぎるのだ。もうちょっとストーリーのうねりが欲しかった。
いま、思い出したのだが、なぜ、このA.A. Fairに興味を持ったかというと、田村隆一田中小実昌がこのシリーズの翻訳をしていたからだ。また、小実昌のエッセイ集にも気を引くような推薦文が載っていた。