「史記物語」渡辺精一

ビジュアル 史記物語

ビジュアル 史記物語

史記物語」を図書館から借りてきて読んでいる。いままで「史記」のドラマチックな部分だけを選り好みして読んできたので、私の知識はかなり偏っている。そこで、一度、きちんと全体像を把握しておきたいと思ったのだ。この本はたくさんの写真を参考資料として掲載しているので取っ付きやすい。初心者のお勉強用として適当だと思った。正直なところ、内容に関しては期待してなかった。どうせ公式的で退屈な記述がだらだら並べてあるのだろうと思っていた。ところが、予想外に面白い。
従来の「史記」関連の本では、英雄豪傑たちの人物像やドラマチックな場面ばかりを紹介しているが、この本はより現実的な政治システムについて言及している。たとえば、秦の始皇帝漢の武帝といえども決して独裁者ではなかったという指摘がある。かれらを皇帝の地位に押し上げた実力者たちの意向を無視して政治を行うことはできなかったというのだ。歴史の表舞台に出てこない実力者たちの存在についてはあらゆる時代のあらゆる王朝の説明のたびに何度も指摘している。王位の「禅譲」についても、それをきれいごとだと笑っている。本当は血みどろの争いをして奪い取っているのだ。儒家の教えについても、戦国の世にそぐわないきれいごだとして冷淡な視線を送っている。この他にもいろいろ興味深い指摘はたくさんある。(著者の意見が前面に出すぎている箇所もあるが・・・)
史記」を読むときはいつも文章の力強さや物語の流れに乗ってしまい、何の疑問も抱かずに通り過ぎてしまっていたが、こうして新しい視点を与えられると「なるほど、そういうことだったのか」と納得することが多い。