後藤明生「蜂アカデミーへの報告」

読んだ感想はどうかといえば、???。よくわからん。
浅間山麓の山小屋でひと夏を過ごし、その間にスズメバチをいかに退治したかを軽妙なタッチで報告している、と書けば一応説明したことになるだろうか。いや、ならないだろうな。それではこの小説の外側を軽く撫でただけにすぎない。
感動したかといえば、否。そもそも、この小説は感動や感傷を読者に与えようとしていない。いわゆる劇的要素を注意深く排除している小説らしいのだ。ふつう、娯楽性を追及しているなら、スリルとサスペンスとか、エロスと暴力とか、血湧き肉踊る大活劇とか、切ないラブロマンスとか、波乱万丈の物語性とか、わかりやすい劇的要素があるはずだが、後藤明生はそういう要素をことごとく排除している。そのような要素よって自分の小説に何か特別な意味がついてしまうことを恐れているらしい。
「小説の面白さは文章の面白さだ」と阿部昭がどこかで書いていたと思う。たしか、芥川の小説を説明しながら、そう語っていたと記憶している。筋・ストーリー展開の面白さよりも、文章・表現の面白さこそが小説の要なのだ、と。
では、この後藤明生「蜂アカデミーへの報告」はどうかといえば、たしかに語り口が軽妙で、惚けた味わいがある。いわゆる饒舌体というものだろう。その語り口に芸があるといえば、怒られるだろうか。芸人ではない、芸術家である、と。でも、この語り口の面白さが、「人間存在のグロテスクな笑い」とどう結びつくのだろう? そこがわからないのだ・・・。