ハリーズ・バーのクリスマス

ハリーズ・バーのクリスマス

「ハリーズ・バーのクリスマス」郷津雅夫(PARCO出版局)は、15枚の写真と短い文章で構成されている。写真はHARRY’S BARにたむろする男たちのポートレートである。しかし店の中が暗いために男たちの顔がはっきり見えない。かれらの姿はまるで飾り窓にかけられたシルエットみたいだ。中年から老年の男たちばかりだが、酒場のカウンターで、ぽつんと一人で座っている姿がなんともいい感じだ。
HARRY’S BARはニューヨークのダウンタウン、バウアリ通りに実際にあったらしい。のちに、オーナーが変わってHAROLD BARになったが、こちらも倒産したらしい。
ポートレートには短い文章が添えられている。それぞれの少年時代の夢が一言で語られ、その後の人生が短くコメントされている。たとえば、こんなふうに。

ジャック・ブラウン

少年時代は、ドジャーズショートストップになる夢をもっていた。

現在、12丁目でネジを中心とした金具店を経営している。

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ロイ・ノリス

運転免許がとれる年齢になったら、きっとカーレーサーになってやろうと、
少年のころ考えていた。

現在は、自動車修理工。カーレーサーに憧れている息子がひとりいる。

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ハロルド・フェリス

大きくなったらパイロットになりたいと思っていた子どもだった。

現在、50歳。バウアリ通りでバーを経営、のちに店は倒産。

その多くが、かなわなかった夢であり、失敗した人生であり、そしてその後に続く平凡な生活である。
最後のページには灯りの消えた店が映し出され、こう記されている。

夢がかなった人にも、まだ夢がかなっていない人にも、
この冬は、すてきなクリスマスがきますように。
メリー・クリスマス。


ハリーズ・バーのクリスマス (パルコグリーティングブックス)

ハリーズ・バーのクリスマス (パルコグリーティングブックス)