豚肉の照焼き定食

甘柿

鹿嶋市に「C」というレストランがある。私は二十歳のときからこのレストランに通って、もう二十五年になる。月に一度、「豚肉の照焼き定食」を食べに行く。値段は900円。ランチとしてはちょっと高いかもしれないが、でも、その味からすれば決して高くない。おそらく、倍の1800円だとしても文句を言わないだろう。
料理についてまったく不調法なので、ここで調理法や味についての描写ができないのが残念だ。文章を読んだ人が思わず口の中に唾を溜めるような描写ができたらどんなにいいだろう。その肉の厚み、柔らかさ、そして噛みしめた時に口中に広がる濃厚な香り・・・。端っこがちょっと焦げたりしているのに、そこがまた旨いんだからもうしょうがない。
とにかく、25年である。飽きもせず「豚肉の照焼き定食」だけを食べ続けてきた。幼なじみの友人もまたこの店でこの定食を食べ続けている。いつも二人で一緒に食べに行くのだ。きょう、二人でこれまでに食べた回数を計算してみた。1年に12回として、25年で300回だ。二人合わせて600食である。
かれこれ四半世紀の出来事である。店の人だって変わってしまった。昔は小太りのおばあさんが店を切り盛りしていた。それが、いつのまにか若い嫁さんらしき女性に代わり、その女性もまたいつしか年を重ねて・・・。なんだか、田舎町のレストランの変遷を定点観測しているみたいだ。
聞くところによると、モーツァルト愛好家のアインシュタインは「死とは何か?」と訊かれ、「私にとって死とはモーツァルトが聴けなくなることだ」と答えたそうだ。ならば、私にとって死とはこの豚肉の照焼き定食が食えなくなることだ、と答えることになりそうだ。
本当はここで、その定食の写真を掲載したいところだが、さすがに店内で写真撮影するなんて恥ずかしい。そこで、いつものように庭の果実を撮ることにした。きょうは柿である。食後のデザートのつもりで掲載する。