「コーヒーもう一杯」

山川直人「コーヒーもう一杯」

きょう、国道沿いの書店に行ったら、山川直人「コーヒーもう一杯」が目にとまった。ビニールカバーがかかっているので、中身を見ることができない。でも、表紙の画を見て、カバーの紹介文を読んで、迷わず買うことにした。まったく知らない漫画家のマンガ本を、なんの予備知識もなく買ってしまうなんて珍しい。
でも、買って正解だった。タイトルのとおり、コーヒーにまつわる話の短編集だが、どれもこれもノスタルジックで、いい雰囲気だ。だから推薦作を一つだけ選ぶのは難しい。好きな人にとっては、おそくら表紙の画から最後の一コマまで好きだろう。
私はこのマンガを昔の喫茶店を懐かしみながら読んだ。だから、ストーリーよりも人物の背後に描かれている風景、店内の場景や夜道の風景ばかりに目がいってしまった。たとえば、電信柱の広告「質 シモジマ」「反町眼科」とか、雑居ビルの小さな窓とか、商店街の雑踏とか。それから、街路灯や街路樹、部屋の壁や天井に染み付いた雨漏りの跡、テーブルの上のコーヒーカップやスプーン。もうこうなると、私の個人的な嗜好にすぎないのだが、ストーリーなんかどうでもいいから、もっと詳細に生活風景のディテールを描いてくれと言いたくなる。
どうも個人的な好みばかりを強調しすぎて、あまり良い紹介文になっていない。でも、80年代の東京の喫茶店を懐かしみたい人にとっては、切ない情景がたくさんあるので、ぜひご一読を。