「精神のけもの道」春日武彦/吉野朔実

精神のけもの道 (アスペクト文庫)

精神のけもの道 (アスペクト文庫)

以前読んだ「私はなぜ狂わずにいるのか」(春日武彦)は精神病院に入院している人々について書かれていたが、この本では入院一歩手前の人々が採り上げられている。
「幻の同居人」と暮らしている老女、贋医者・贋アナウンサーの若者、神経症(ノイローゼ)の人々、不確実感に執りつかれた男、傲慢なる依存癖(ありのままの自分を受け止めてもらおうとする人々)、自己嫌悪に囚われた人、理詰めで自分を追い込む人々。
読んでいて身につまされる話がある。他人事ではないのだ。私だっていつ何時、「精神のけもの道」に足を踏み入れてしまうかもしれない。

神経症は人間観察に興味を持つ者にとってなかなか魅力的である。なぜならヒトが思いつくあらゆる不幸や病気が、神経症において「実演」され得るからである。古今東西に出現した神経症の症状をすべて記録した書物があったとしたら、それはおそらく人間の想像力の限界(そして凡庸さ)を指し示してくれるといった意味できわめて興味深いことだろう。

これと似たような話を聞いたことがある。それは世界中のお化け・幽霊について、それぞれの国や民族の違いはあれど、その数はだいたい同じらしい。一定の数に達すると、もうそれ以上のお化けの種類は出てこないのだ。これもまた人間の想像力の限界を示しているのかもしれない。さらに言うと、人類が生み出してきた物語のパターンも数十種類が限界だという。
ちなみに、本書ではそれぞれの症例やエピソードを挙げて寸評しているだけで、特に改善策のようなものは書かれていない。まあ、神経症面白話カタログのようなものだ。