「くすぶり」

「くすぶり」という言葉がある。
かつて大阪では、真剣師のことをそう呼んでいた。火種は持っているが、メラメラと燃え上がることはなく、煙だけ出してくすぶっている将棋指し――ということだから、どちらかといえば、プロでも純粋なアマチュアでもない真剣師のことを蔑むようなニュアンスの言葉だ。
もっとも、実際には真剣師が自分のことを言うときに使われることが多い。
「ワイはくすぶりやから」
と彼らが言うとき、そこには将棋の裏街道を歩く者の自嘲的な気分と、己の腕一本で厳しい世界を生き抜く勝負師としてのプライドがないまぜになった、複雑な心境が込められていた。

 団鬼六・宮崎国男「疾風三十一番勝負」より

こういう「くすぶり」の心情に共感したり、ロマンを感じてしまう自分がいる。だから駄目なんだよ、と思う。今さら反省しても遅いけどね。
真剣師小池重明疾風三十一番勝負 (幻冬舎アウトロー文庫)