久世光彦「ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング」

ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング (文春文庫)
ここで紹介されている歌のほとんどは戦前・戦中・戦後直後の歌ばかりなので、当然、リアルタイムで聴いたわけではない。でも、歌詞を見ながら口ずさむことはできる。体験したわけでもないのに、歌の調べに乗せられて戦後直後の焼け跡の町で生きてきたような気持になったりする。
なんだろう、この郷愁は? 「港が見える丘」、「幌馬車の唄」、「みんな夢の中」。アーティストの楽曲ではなく、ミュージックでもなく、ただの流行歌として親しみたい歌である。
ちなみに「<虚の花>の季節」の章で「終着駅」の作詞家・千家和也を取り上げているが、その特異な才能を紹介する久世の筆が冴えている。