宮本輝「二十歳の火影」

新装版 二十歳の火影 (講談社文庫)
二十代の頃に読んで、これはいい文章だと思い、身近な本棚に並べておいた。それなのに再読したのが30年後とは・・・。歳月が過ぎてゆくことのなんと慌ただしいことか。
再読した印象は30年前とほとんど変わらない。ほんの数ページのエッセイなのに、一つひとつの短文に力がこもっている。熱っぽい。人間の善意と悪意、人生の酷薄と救済が、短篇小説のように書き込まれている。デビューしてまもない新人作家が、出し惜しみすることなく、たとえ片々たるエッセイであろうと全力を傾けて書いているという印象である。
「途中下車」、「地獄の数」、「蜥蜴」、「不思議な花火」、「五十肩」。どれも一読して忘れがたい。
ちなみに、第二エッセイ集の「命の器」も読んだが、こちらは少し薄味になっている。デビューして数年が経ち、片手間とは言わないが、たくさんの注文をこなしているという印象である。社会に対してのステレオタイプな意見や退屈な文章がチラホラ。
「二十歳の火影」は現状どうなっているのかとamazonを見てみたら、講談社文庫で新装版が出ていた。460円はお買い得だと思う。講談社文芸文庫に入ってもいい品質だと思うけど、そうなると高価になってしまうんだよな。