「しとやかな獣」川島雄三監督

しとやかな獣 [DVD]
北野武監督の「アウトレイジ」に出てくる奴はみんな悪党ばかりだというけど、この「しとやかな獣」だって出てくる奴はみんな小悪党ばかりだ。ただ、この映画は北野映画のような流血シーンはない。もっとも自殺者は出てくるから、まったく無害というわけではないけれど。ちなみに、川島監督の他の映画「風船」にも自殺者が出る。ホームドラマ風の軽快な作品なんだけど、クールに割り切って効率的に生きようとしても実際には誰かをひどく傷つけずには済まないというような苦い後味が残る。
それにしても、「しとやかな獣」の小悪党ファミリーは傑作だ。伊藤雄之助山岡久乃の夫婦のやりとりにはつい笑ってしまう。なんだろう、このすっとぼけた味わいは。会社の金を横領して逃げ回っている息子に向かって「どうせ横領するなら小さい金ではだめだ。もっと大きな金を使い込まないとね。そうすれば裁判沙汰にはなりにくいものだよ」なんて説教するんだから。それから、自分の娘を流行作家の愛人に斡旋している。「この娘はですね、妊娠しにくい体質なんですよ。その点でも先生にはご迷惑をおかけしないと保証します」と、もうめちゃくちゃな親父なんだけど、なんか笑っちゃう。ただ、終始、無表情の山岡久乃だけは無気味だ。