童謡「蛙の笛」

寺山修司編著「日本童謡集」にこんなエピソードが紹介されている。

何年か前に、ジャイアント馬場に会ったときに、彼は体の大きさに似合わぬような弱音をはいた。それは、平均的なものを優先する社会が、彼のような規格外の大男をどのように疎外してきたか、ということであり、もはやヘラクレスのような英雄は、見世物にしかなれないのだ、といったようなことであった。
 いやなことが重なると、ワシは唄をうたうんです。
 と、ジャイアント馬場が言った。
 何の歌?
 ときくと、「砂山」ですよ、とこたえて、唄いだした。

  海は荒海
  向こうは佐渡
  雀泣け泣け もう日は暮れた

新潟出身の馬場にとって、それは望郷の童謡でもあったのだろう。

どうして急にこの話を思い出したかというと、たまたまYouTubeジャイアント馬場が唄う「蛙の笛」を聴いたからだ。もちろんプロの歌手ではないし、素人の唄う童謡であるから特に上手いわけではない。でも、味がある。節回しもいい。森繁久彌の歌唱法にも似ている。昔のじいさんたちはこういう節回しで唄ったものだな、なんて思い出した。
寺山は言う。
「すぐれた童謡というものは、長い人生に二度あらわれる。一度目は子供時代の歌として、二度目は大人になってからの歌としてである」
蛇足ながら、ジャイアント馬場が唄う「満洲里小唄」もいいですよ。聴くほどに心に沁みてきます。