「昔日の客」 関口良雄

昔日の客

昔日の客

名著の復刊ということで、この本についてはすでにあちこちで紹介されているので、まあ、私がここでくどくど宣伝する必要はないだろう。とにかくこういう良い本が刊行されるのはありがたいことだ。
この山王書房店主の関口良雄については野呂邦暢の文章を通して親しんでいた。どちらかといえば、学者肌で気難しく癇性の人をイメージしていたのだが、この本を読むとやや印象が異なる。実際の関口氏は酒が入ると陽気に唄をうたい、人違いをされても訂正せずに別人に成り済ますして遊ぶような茶目っけのある人だったようだ。
それにしても一介の古本屋でありながらこれだけ多くの文人たちに愛され、亡くなってから深く哀惜される関口良雄という人はよほど魅力のある人だったのだろう。
なにしろ野呂邦暢などは一度ならず二度までもエッセイ集にこの人を登場させ、作家になった後には店を再訪し、電話をかけて旧交を温め、さらに自身の芥川賞受賞式に招いている。かつて店主と客という立場(野呂は廉価本をさらに安く値切ってばかりいたらしい)でしかなかったにもかかわらず、後年になって野呂の方から再会を求めている(この一連の経緯を見ていると、まるで野呂が自身の作家としての成功を父親あるいは師匠に見てもらいたがっている弟子ような印象すら受ける)。
ちなみに、この本の題名「昔日の客」は野呂邦暢との交流からきている。     ぜひご一読を。