幕末純情伝

幕末純情伝

つかこうへい版「ジェットストリーム」の口上を紹介してみたい。というより、これは「幕末純情伝」の劇中のセリフである。私が観たのはもう二十年くらい前のことだ。渋谷のパルコ劇場、竜馬役は西岡徳馬

高度一万メートルの雲海から垣間見た、旅の別れは、もしかしたら僕とあなたの新しい旅の始まりなのかもしれません。もしかしたら、二人がより一層かたく結ばれるための静かなる序章なのかもしれません。
スペイン広場の階段を裸足で駆け去ったあなたをただ見送る僕が、パリ二十三区のカフェで雨に打たれながら、背中を丸めタバコをくゆらしているのは、決して心がうちひしがれているからではありません。
いつの日か、この胸にあなたをかき抱かんが為に、牙を休めている。そう僕は、遠くギリシアアテナイの戦士です。漆黒の闇の中でたてがみを休めている、そう、僕は今ライオンなのです。
お送りしましょう、いま爪をとぎ、牙をむき、いまあなたに襲いかかろうとする僕のジェットストリームを。僕は、あなたに教えてあげることができます。
アルチュール・ランボウが白い星の花を求めアフリカに旅立ったその哀しい謎を。
フリードリッヒ・ニーチェがその鉄の意志で書いた「ツァラトゥストラ」のその慟哭の謎を。
リヒャルド・ワグナーが五線譜に叩きつけた「ワルキューレ」の怒りの謎を。
ビンセント・ヴァン・ゴッホがアルルの黄色い部屋の中で耳をそぎおとさなければならなかったその絶望の謎を。
僕は教えてあげることができます。