文語文

樋口一葉に聞く (文春文庫)
英文ばかり読んでいると、無性に日本語文が読みたくなる。特に漢文脈の文章が読みたくなる。たとえば、中島敦なんか最高だ。ついエスカレートして「論語」「老子」「荘子」「史記」「十八史略」と読み進みたくなる。
以下はネット上で見つけた碑文だが、一読して思わずノートに書き写してしまった。これが名文かどうかは知らない。ただ、読むほどに陶然とする。音読したくなる。体の細胞が震えてくる。

ここは明治文壇の天才樋口一葉旧居のあとなり。一葉この地に住みて「たけくらべ」を書く。明治時代の竜泉寺町の面影永く偲ぶべし。今町民一葉を慕ひて碑を建つ。一葉の霊欣びて必ずや来り留まらん。
菊池寛右の如く文を撰してここに碑を建てたるは、昭和十一年七月のことなりき。その後軍人国を誤りて太平洋戦争を起し、我国土を空襲の惨に晒す。昭和二十年三月この辺一帯焼野ケ原となり、碑も共に溶く。
有志一葉のために悲しみ再び碑を建つ。愛せらるる事かくの如き、作家としての面目これに過ぎたるはなからむ。唯悲しいかな、菊池寛今は亡く、文章を次ぐに由なし。僕代って蕪辞を列ね、その後の事を記す。嗚呼。
  昭和二十四年三月
                                  菊 池   寛撰
                                 小島政二郎補並書
                                     森田春鶴刻