NHKスペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか」

ランプ

「100年の謎」、「天才数学者」、「謎の解明」、「失踪」。これだけ劇的要素が揃っていれば面白くならないはずがない。私は数学どころか算数さえもあやしい浅学非才の身であるから、「ポアンカレ予想」の証明がどれほどすごいことなのかリアルに体感することができない。そのかわり学術的な部分から離れるのだが、人間の運命に興味を持った。
ペレリマン博士は謎を解明した後、なぜ栄誉を受けず、社会に背を向け、失踪してしまったのか? 明るく快活だった天才少年がなぜ孤独を深めていったのか? じつに興味深い。
見終わったあと、日常と非日常についてもぼんやり考えた。数学の世界へ心を遊ばせているうちはいい。しかし、その魅力に執り憑かれて非日常の領域にどっぷり嵌り込んでしまい、いつしか日常の世界に戻れなくなることはないだろうか。数学にかぎらない。他の学問にだってある。特に、芸術の分野には生活破綻者のオンパレードだ。スポーツにだってあるだろうし、アルピニストはその極北だ。
非日常の世界に憑かれて、引き込まれていく人間には狂気の気配が色濃く漂っている。死の匂いもする。健康的なものではない。かれらは恐ろしく魅惑的な世界を見てしまったのだろう。その魅力から比べると、日常はあまりにも平板で味気なく退屈な場所にちがいない。まあ、凡人には関係ない話だと、うれしいようなうれしくないような溜息をつくばかりだ。
(写真はフリー素材。[フォトライブラリー]より)