「阿部昭全短篇」(上)

上巻には21篇の短篇が収録されている。個人的な好みだけど、「明治四十二年夏」と「子供部屋」がよかった。また、「ささやかな結末」も楽しい読み物で、読後感がよかった。「天使が見たもの」はちょっと異色の作品だ。読後、少年の冷たい遺体に手が触れたような気がして静かな衝撃がいつまでも心に残る。
この本の裏表紙には購入日がメモしてある。「1982年10月27日 木曜日 神田古本まつり 上下合わせて2500円」。もう26年も昔のことだ。その日のことはぼんやり覚えている。曇り日の午後だったこと、値段が2500円だったので買おうかどうしようか迷ったことなど。
あの日はたしか、アテネフランセの英会話の授業に出て、その帰りに神保町に立ち寄ったのだ。迷った末にようやく買う決心をしたのは、雨のせいだ。ぐずぐずしているうちに薄暗い空からぱらぱら小粒の雨が落ちてきた。しかもその本は通りに面した露台に並べられていたので(岩波ホールの前)、たちまちビニールシートで覆われてしまった。なんだか急かされているような気がして、思わず手が伸びた。
それにしてもあの日に買った本を今ごろ読み終えるなんて・・・。26年の歳月なんて、あっという間だ。