「生物と無生物のあいだ」福岡伸一

めったに手を出さないのだが、科学系の本を読んでみた。

私たちは、自分の表層、すなわち皮膚や爪や毛髪が絶えず新生しつつ古いものと置き換わっていることを実感できる。しかし、置き換わっているのは何も表層だけではないのである。身体のありとあらゆる部位、それは臓器や組織だけでなく、一見、固定的な構造に見える骨や歯ですらもその内部では絶え間のない分解と合成が繰り返されている。
入れ替わっているのはタンパク質だけではない。貯蔵物と考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな「流れ」の中にあった。
<中略>
よく私たちはしばしば知人と久闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは一年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである。かつてあなたの一部であった原子や分子はもうすでにあなたの内部には存在しない。
肉体というものについて、私たちは自らの感覚として、外界と隔てられた個物としての実感があるように感じている。しかし、分子のレベルではその実感はまったく担保されていない。私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということであり、常に分子を外部から与えないと、出ていく分子との収支が合わなくなる。

長い引用になってしまった。失礼。それにしても「お変わりありまくりなのである」には笑ってしまった。