「秋日和」

秋日和

初笑いとして手放しでゲラゲラ笑う映画もいいが、こういうクスクス笑う映画もいい。
佐分利信、北竜二、中村伸郎の三人がカウンターに並んでいるだけでなんだか可笑しい。それぞれ社会的には地位も名誉もある中年男たちなのに、やっていることと云えば実に子供っぽいことばかりだ。この三人の男たちが出る場面だけを拾って観るだけでも十分に楽しめる。しかつめらしい顔しているところが妙に笑いを誘う。
それから岡田茉莉子のキャラクターもいい。三人の中年男たちを手玉に取る場面なんか実にいいテンポで、この映画の見どころだと思う。
それにしても、親が再婚することを知って娘が拗ねるというストーリー展開がここでも繰り返されている。まったく、うんざりだ(まあ、早回ししちゃったからいいんだけど)。原節子司葉子の母娘の心模様がこの映画の主眼だと思うのだが、私にはそのメインテーマがいちばん退屈なのだから困ったものだ。
松竹編「小津安二郎新発見」の中で岡田茉莉子が小津監督との思い出を語っているので、ちょっと抜粋してみる。
岡田「先生の一番お気に入りの女優さんは誰ですか?」
小津「うーん・・・」
岡田「じゃあ、四番バッターは?」
小津「杉村(春子)さんだ」
岡田「じゃあ、私は?」
小津「一番バッターだな、お嬢さんは」
岡田茉莉子は小津の親友(岡田時彦)の娘だったので、いつも「お嬢さん」と呼んでいたらしい。