耕治人
- 作者: 耕治人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/05/02
- メディア: 文庫
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こういう事実だけを見ると、いかにもありふれた老人介護の悲惨な話かと思ってしまう。たしかにその現実は壮絶であるが、この小説の本領はそこにあるのではない。語られている事実の悲惨さにばかり目を奪われていると肝心なところを見落としてしまう。本当に肝心なのは、そのような悲惨な現実を受け入れる耕治人の受容の姿勢にある。普通、不幸な出来事に遭うと、たいていの人は硬直してしまうものではないだろうか。心も体もこわばり、言葉・文章が大げさになる。でも、耕治人はちがう。じつに柔らかい。まるで天から降ってきた恵みをいただくように不幸を受け入れる。小心で神経質な耕治人が、突然、聖人のような崇高な存在に思えてくる。そこには凄みさえある。
読後感は決して暗鬱なものではない。小説のタイトルのように「一条の光」を見たような浄福感に包まれる。