銀座の名画座

並木座のチラシの一部

昨日の写真は、銀座2丁目にあった喫茶店「千里軒」のマッチだ。といっても、もう今はない。たしかカラオケ店に変わったはずである。どうして私のような者が銀座の喫茶店になじんでいたのかというと、この店が「並木座」の真正面にあったからだ。
並木座」というのは、まあ、邦画好きの人にとっては有名な映画館で、日本映画を専門に上映していた名画座である。1953年から45年間も続けてきたということだが、1998年9月に閉館してしまった。詳しいことは知らないが、ビデオが普及して古い名画を自宅で手軽に観られるようになったので、名画座の経営が難しくなったのだろう。
私も映画をビデオで観るようになってからは映画館に足を運ぶことはなくなった。名画座に行くことはさらになくなり、並木座で観た最後の映画はたしか「ゆきゆきて神軍」だったと思う。(これは強烈だったな。こんな内容の映画を一般上映してもいいのかと途中で不安になったくらいだ。それでいながら、見終わった後にある種の高揚感も感じていたのだが。)
私の場合、日本の名画のほとんどをこの映画館で観たといってもいい。小津も黒澤も、溝口も木下も、そして成瀬も今村も、すべてこの並木座で観た。混んでいるときは、次の開演時間まで外で待った(銀座なんてめったに行かないから、並木通りを何度も往復してしまった)。財布に余裕があるときは、目の前の「千里軒」の窓際の席で珈琲を啜り、煙草を吹かしながら待った。もう二十年も昔のことだ。