「たそがれ清兵衛」

たそがれ清兵衛 [DVD]
山田洋次監督の藤沢周平シリーズ3作の中では、この第一作「たそがれ清兵衛」が一番いい。立身出世を望まない男、貧乏でもいいから平凡な生活を愛する男を真田広之が好演している。いまさら褒め言葉なんかいらないだろうが、いい映画を見たあとは褒めたくなる。
個人的な嗜好なのだが、事件が起こる前のなんでもない日常生活の描写が好きだ。貧乏な平侍の勤めぶりや内職の虫籠作りや、夜更けに娘と共に論語素読をするシーンなど、平凡な生活の描写が好ましく、何時間でも眺めていたい。
今回、見直してみて、クライマックスの盛り上げ方に感心した。討手の清兵衛には否応なく命じられた事情がある。また、討たれる側の侍・余吾善右衛門にも上意に承服できない思いがある。二人とも妻を労咳で亡くし、薬代にも事欠く貧乏暮らしをしてきた。余吾には娘も亡くした過去もある。討つ側と討たれる側、この二人の人生がクライマックスで交錯する。ここで、討たれる側を単なる悪者・怪物として扱わず、きちんと血の通った人間として描いていることがうれしかった。