泉谷しげる「GOLDEN BEST」

GOLDEN☆BEST Early Days Selection

GOLDEN☆BEST Early Days Selection

数年に一度、泉谷しげるの歌が聴きたくなる。そんなときは初期の歌ばかりをまとめて聴くことにしている。大半は好きなのだが、ロック調の歌は苦手だ。やはり「春夏秋冬」、「春のからっ風」、「街はぱれえど」、「少年A」、「寒い国から来た手紙」が好きだ。それから「愛夢」(「家族」に収録)だったかな。さみしくて、いい歌があった。そして「ライブ! 王様たちの夜」の熱気も懐かしい。(LPレコードを何枚か持っていたのだが、プレイヤーがないのでもう聴くことができない)
ちなみに、このCD「GOLDEN BEST」にはほとんどの代表曲が入っているのに、なぜか物足りない感じが残った。どうしてだろう? やはりヒット曲の寄せ集めではなく、アルバム単位で聴き込んだほうがいいのか。

以下、蛇足の思い出ばなし: 
中学生の頃、深夜ラジオから流れてきた「少年A」と「春夏秋冬」を聴いて、翌日、レコード店に走ったことがある。田舎育ちで、音楽にオクテで、演歌とグループサウンズしか聴いたことなかった少年にとって、その歌は衝撃だった。表面をきれいにコーティングした流行歌とは明らかにちがう。ぎこちなくて、ざらついていた。生活の心情を生のまま歌にしていて、こんな素朴な心情を歌謡曲として歌っていいのか?と思った。歌い方だって決して上手ではない。投げ捨てるような感じで、いかにも素人っぽい。でも、ストレートに心に触れてくる。そんな歌だったし、歌い方だった。
大袈裟な言い方になるが、素手で心臓に触れられたような気がした。誰もが隠している、本当は口にしてはいけない寂しい心情を歌っていると思った。だから走ったのだ。
あれから歳月は流れ流れて三十数年。たくさんの水が橋の下を流れ去り、十二歳の少年は四十半ばの中年オヤジになった。そして、かつて私の胸を震わせた張本人は、いまや、食わず嫌い王となって、水ようかんを食って泣いている。とんねるずに「じぃじ」と呼ばれ、照れ笑いして孫の話なんかしている。すっかり人のよい好々爺になってしまった。あの野良犬のような吟遊詩人が・・・。
冬の深夜、あれほど切なく感動し、翌朝、霜柱を踏みしめてレコード店に走ったことなど、今となっては遠い昔の話だ。